著作権と図書館貸出:米国における制度的課題

米国の図書館は、著作権法と公共アクセスの狭間で複雑な課題に直面しています。デジタル時代の到来により、電子書籍の貸出やオンライン資料の提供が増加する一方で、著作権者の権利保護と図書館の公共サービスとしての役割のバランスをどのように取るかが問われています。本記事では、米国における図書館貸出制度と著作権の関係、そして現在進行中の制度的課題について詳しく解説します。

米国における図書館貸出制度は、著作権法の枠組みの中で独自の発展を遂げてきました。1976年著作権法の制定以降、図書館は特定の条件下で著作物を貸し出す権利を持つようになりましたが、デジタル化の進展により新たな問題が浮上しています。特に電子書籍やデジタルコンテンツの普及は、従来の物理的な書籍貸出とは異なる法的・技術的課題をもたらしています。

米国著作権法における図書館の特例とは

米国著作権法第108条は、図書館やアーカイブに対して特定の条件下での複製権を認めています。この規定により、図書館は保存目的や研究目的での複製が可能となり、利用者への資料提供が円滑に行われています。ただし、この特例は営利目的ではない機関に限定され、複製は体系的に行われてはならないという制限があります。また、デジタル複製については追加の制約が設けられており、技術的保護措置を回避することは原則として禁止されています。図書館員は著作権に関する専門知識を持ち、日々の業務において法令遵守を徹底する必要があります。

電子書籍貸出における出版社との契約問題

電子書籍の貸出は、物理的な書籍とは異なる契約モデルに基づいています。多くの出版社は図書館に対して、一定期間または一定回数の貸出後にライセンスが失効する条件を課しています。例えば、ある電子書籍は26回の貸出後に再購入が必要となるケースや、2年間のライセンス期間が設定されているケースがあります。このようなモデルは図書館の予算を圧迫し、特に小規模な公共図書館にとって大きな負担となっています。また、一部の出版社は図書館への電子書籍販売を制限したり、個人購入価格の数倍の価格を設定したりしており、公平なアクセスを妨げる要因となっています。

デジタル時代における第一販売権の適用範囲

第一販売権の原則は、著作物を合法的に購入した者がその物理的コピーを自由に転売または貸与できる権利を保証しています。しかし、この原則がデジタルコンテンツに適用されるかどうかは議論の的となっています。2013年のキャピトル・レコード対レディガ事件では、裁判所はデジタル音楽ファイルの再販売に第一販売権が適用されないと判断しました。この判例は電子書籍にも影響を及ぼし、図書館が電子書籍を永続的に所有し貸し出す権利に疑問を投げかけています。物理的な書籍であれば図書館は一度購入すれば永続的に貸し出せますが、電子書籍では継続的なライセンス料が必要となる構造が一般的です。

制御デジタル貸出とインターネットアーカイブの取り組み

制御デジタル貸出(Controlled Digital Lending, CDL)は、図書館が所有する物理的書籍をデジタル化し、同時に一人の利用者にのみ貸し出すという方式です。インターネットアーカイブはこの方式を採用し、数百万冊の書籍へのアクセスを提供してきました。しかし、2020年に大手出版社4社がインターネットアーカイブを著作権侵害で提訴し、2023年に裁判所は出版社側の主張を認める判決を下しました。この判決はCDLの合法性に疑問を投げかけ、多くの図書館がデジタル貸出サービスの見直しを迫られています。一方で、図書館関係者や利用者権利擁護団体は、この判決が公共アクセスを制限し、特に経済的に恵まれない地域の利用者に不利益をもたらすと批判しています。

図書館予算とライセンス費用の実態

米国の公共図書館は、限られた予算の中で電子書籍ライセンス費用の増加に対応しなければなりません。小規模図書館の年間資料購入予算は数千ドルから数万ドル程度ですが、電子書籍の価格設定により物理的書籍よりも少ない点数しか購入できない状況が生じています。大規模図書館システムでは年間数百万ドルをデジタルコンテンツに投資していますが、それでも利用者の需要に追いつかないケースが多く見られます。また、電子書籍プラットフォームの利用料やデータベースのサブスクリプション費用も図書館予算を圧迫しています。


図書館規模 年間資料予算の目安 電子書籍への配分 主な課題
小規模公共図書館 5,000~30,000ドル 10~30% 限られた予算での選書、ライセンス更新費用
中規模公共図書館 50,000~200,000ドル 20~40% 出版社との交渉力不足、プラットフォーム費用
大規模図書館システム 500,000~数百万ドル 30~50% 大量ライセンスの管理、利用者需要への対応
大学図書館 数百万~数千万ドル 40~60% 学術出版社の高額ライセンス、研究支援

予算配分や費用は図書館の規模、地域、利用者数によって大きく異なります。また、電子書籍市場の価格動向や出版社の方針変更により、これらの数値は変動する可能性があります。独自の調査を行ってから予算計画を立てることをお勧めします。


今後の展望と政策的議論の方向性

著作権と図書館貸出の問題は、今後も米国における重要な政策課題であり続けるでしょう。一部の州では図書館の電子書籍アクセスを保証する法案が提出されており、メリーランド州では2021年に出版社が図書館に対して合理的な条件で電子書籍を提供することを義務付ける法律が成立しました。連邦レベルでも、図書館協会や市民団体が著作権法の改正や第一販売権のデジタル時代への適用を求めるロビー活動を展開しています。一方、出版業界は著作権者の経済的権利を保護する必要性を主張し、図書館への過度な優遇措置が出版市場を損なうと警告しています。両者の利益をバランスさせる持続可能な解決策を見出すことが、今後の課題となります。

米国における著作権と図書館貸出の制度的課題は、知的財産権の保護と公共の情報アクセス権という二つの重要な価値の間でバランスを取る難しさを示しています。デジタル技術の進化は新たな可能性をもたらす一方で、従来の法的枠組みでは対応しきれない問題を生み出しています。図書館、出版社、政策立案者、そして利用者が協力し、公正で持続可能な情報アクセスの仕組みを構築していくことが求められています。